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京都地方裁判所 平成5年(わ)63号 判決

本店の所在地

京都府久世郡久御山町大字佐山小字新開地二七番地

法人の名称

安田産業株式会社

代表者の住居

京都市南区久世上久世町五三〇番地の三〇

代表者の氏名

安田斗鶴こと 安斗鶴

国籍

韓国(慶尚南道晋陽郡智水面龍鳳里三三〇番地)

住居

京都市伏見区羽束師鴨川町四一番地の二二

会社役員

安田奉春こと 安奉春

一九五一年三月二三日生

右安田産業株式会社及び安田奉春こと安奉春に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官谷岡賀美出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人安田産業株式会社を罰金四、〇〇〇万円に、被告人安田奉春こと安奉春を懲役一年六月に処する。

被告人安田奉春こと安奉春に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人安田産業株式会社(以下「被告会社」という。)は、京都府久世郡久御山町大字佐山小字新開地二七番地に本店を置き産業廃棄物及び一般廃棄物の収集、運搬等の業務を目的とする株式会社であり、被告人安田奉春こと安奉春(以下「被告人安」という。)は、被告会社の取締役として同会社の業務全般を統括するものであるが、被告人安は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一  昭和六三年七月一日から平成元年六月三〇日までの事業年度における実際の所得金額は一億二、五〇八万九、二九一円で、これに対する法人税額は五、一五四万四、三〇〇円であるにもかかわらず、売上げの一部を除外するなどの行為により、右所得金額のうち一億一、二三七万四、五八一円を秘匿した上、平成元年八月三一日、京都府宇治市大久保町井の尻六〇番地の三所在の所轄宇治税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が一、二七一万四、七一〇円で、これに対する法人税額は四三四万六、八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額五、一五四万四、三〇〇円との差額四、七一九万七、五〇〇円を免れ

第二  平成元年七月一日から平成二年六月三〇日までの事業年度における実際の所得金額は一億五、四〇七万一、〇八八円で、これに対する法人税額は六、〇七二万九、九〇〇円であるにもかかわらず、前同様の行為により、右所得金額のうち一億三、六八一万〇、〇四〇円を秘匿した上、平成二年八月三一日、前記宇治税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が一、七二六万一、〇四八円で、これに対する法人税額は六〇〇万五、九〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額六、〇七二万九、九〇〇円との差額五、四七二万四、〇〇〇円を免れ

第三  平成二年七月一日から平成三年六月三〇日までの事業年度における実際の所得金額は一億四、〇〇一万七、三七四円で、これに対する法人税額は五、一七三万八、四〇〇円であるにもかかわらず、前同様の行為により、その所得金額のうち一億二、〇五五万六、五六八円を秘匿した上、平成三年八月三一日、前記宇治税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が一、九四六万〇、八〇六円で、これに対する法人税額は六五二万九、五〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額五、一七三万八、四〇〇円との差額四、五二〇万八、九〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)(なお、括弧内の検番号は、記録中の証拠等関係カードに検察官請求分として記載されている証拠番号を示す。)

判示事実全部について

一  被告人安の当公判廷における供述

一  被告会社代表者安田斗鶴こと安斗鶴の当公判廷における供述

一  被告人安の検察官に対する各供述調書(二通、検92、93、)

一  収税官吏作成の被告人安に対する各質問てん末書(三八通、検54ないし91)

一  安田優希こと徐明美(検38)及び被告会社代表者安田斗鶴こと安斗鶴(検44)の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の安田優希こと徐明美(四通、検34ないし37)、被告会社代表者安田斗鶴こと安斗鶴(五通、検39ないし43)星野武夫こと李琴(三通、検45ないし47)及び椙本博三(検48)に対する各質問てん末書

一  国税査察官作成の査察官調査報告書(検2)

一  収税官吏作成の脱税額計算書説明資料(二通、検7、49)

一  収税官吏作成の各査察官調査書(一八通、検11ないし28)

一  京都地方法務局登記官作成の登記簿謄本(検50)

一  被告会社代表者安田斗鶴こと安斗鶴作成の証明書(検29)

一  国税査察官作成の各写真撮影てん末書(二通、検30、33)

一  収税官吏作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(検3)

判示第一の事実について

一  収税官吏作成の脱税額計算書(検4)

一  収税官吏作成の査察官調査書(検8)

判示第二の事実について

一  収税官吏作成の脱税額計算書(検5)

一  収税官吏作成の査察官調査書(検9)

判示第三の事実について

一  収税官吏作成の脱税額計算書(検6)

一  収税官吏作成の査察官調査書(検10)

(法令の適用)

被告会社の判示各所為は、各事業年度ごとに法人税法一六四条一項、一五九条一項に、被告人安の判示各所為は、各事業年度ごとに同法一五九条一項に該当するところ、被告会社については情状により同法一五九条二項を適用し、被告人安については所定刑中懲役刑を選択することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法四八条二項により合算した金額の範囲内で罰金四、〇〇〇万円に、被告人安については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年六月にそれぞれ処することとし、被告人安に対し情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、産業廃棄物及び一般廃棄物の収集、運搬等の業務を目的とする被告会社の取締役が不正の行為により法人税を免れたという事犯であるが、被告会社において、昭和六三年七月一日から平成三年六月三〇日までの三期にわたり売上除外、さらに平成三年六月期までは架空の人件費や外注費を計上するなどの不正経理が日常的に行われていたものであり、犯情悪質であり、合計三億六、九七四万一、一八九円の所得を秘匿し、ほ脱に係る額が三期合計一億四、七一三万〇、四〇〇円に、ほ脱率も通算約九〇パーセントにも上っており、国庫収入に多額の損害を与え、租税負担の均衡、公正を損なったものであって、その結果は重大といわなければならず、一般予防の見地からも厳しくその刑責が問われてしかるべき事案である。また、このような違法行為に至った動機は、被告会社の事業を最終処分場を有する処分業にまで拡大させることを計画し、処分地を取得するための資金を得るために本件不正行為に及んだというもので、会社役員の個人的利益をもくろんだものではないとはいえ、結局は会社の営利目的のために課税義務を免れようとしたもので、酌量の余地に乏しいといわざるを得ないのであって、被告会社及び被告人安の本件刑事責任は重いといわなければならない。

しかしながら、他方、本件犯行に至った経緯において、被告人安が率先かつ積極的に売上除外等の手口や方法等を考案したものではなく、従前から税務手続等の代行を依頼していた団体の指示や指導の下で行われていたという事情も存すること、本件発覚後、被告会社は、本税のほか、加算税、延滞税を完納しており、また、本件によって、被告会社の事業活動などについて、既に一定の社会的制裁を受けているとみとめられること、さらに、被告会社は、現在、右団体との関係を絶ち、税理士の適切な指導の下税務の適正処理を全うすべき体制をとるに至っていること、被告人安においても、本件を深く反省、後悔し、その改悛の情も顕著であり、今後は地道な事業活動を行い、二度と本件のような過ちを繰り返さない旨誓っていること、被告人安に少年期の罰金前科があるにとどまりその他の前科前歴は一切なく、本件を除いては真面目に事業に取り組んできたものであること等被告会社及び被告人安に対し酌むべき事情も認められ、被告会社の現在の経営状況等その他の諸般の事情を総合し、被告会社及び被告人安に対し主文掲記のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 森浩史)

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